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ウェルニッケ失語

~ ウェルニッケ失語コラム ~ ウェルニッケ失語の問題と原因①

ウェルニッケ失語ってなあに?

ウェルニッケ失語とは、失語症の基本分類のうちの1つです。

失語症とは、後天的な脳の器質的な損傷によって起こる、「話す」「聞く」「読む」「書く」4つのモダリティすべてに渡る障害のことを指します。失語症があるとコミュニケーションに影響を及ぼしますが、知的機能や精神機能、全般的な認知機能に障害はありません。

失語症のタイプ分類には現在に至るまで様々な方法が提案されてきました。古典的分類では、失語症の種類を「流暢性」「復唱可能かどうか」「聴覚的理解の程度」の3つの観点から分類します。

古典的分類を基にした、失語症の基本8タイプは下記の通りです。

・全失語:すべての言語機能が重度に障害される。
・ブローカ失語:発話と復唱は顕著に障害され、聴覚的理解は比較的良好。
・ウェルニッケ失語:流暢な発話、聴覚的理解と復唱は顕著に障害される。
・伝導失語:流暢な発話で聴覚的理解も比較的良好、復唱は顕著に障害される。
・超皮質性運動失語:非流暢な発話、復唱と聴覚的理解は比較的良好。
・超皮質性感覚失語:流暢な発話と良好な復唱、聴覚的理解は中〜重度に障害される。
・超皮質性混合失語:非流暢な発話、良好な復唱、聴覚的理解は重度に障害される。
・失名辞失語:流暢な発話、良好な復唱、良好な聴覚的理解。喚語困難は見られる。

○:比較的良好 ×:障害されている

その中でも、今回のコラムでは「ウェルニッケ失語」について紹介いたします。

ウェルニッケ失語の特徴とは

ウェルニッケ失語は流暢性失語とも呼ばれ、以下のような特徴があります。

発話
・流暢で多弁、錯語の目立つ発話。
・喚語困難と呼ばれる症状を伴う。
・発話量の割に情報の少ない空虚な発話。
聴覚的理解
・顕著に障害されており、単語レベルで理解が困難。
復唱
・聴覚的理解の障害を原因として、復唱も困難。
読み
・障害されている。聴覚的理解よりもやや良好な例もある。
書き
・個々の文字を書くことはできても、理解不能な状態。もしくは書字不能。
その他
・麻痺は軽度もしくは無いことが多い。
・右同名半盲、病識の低下を伴うことがある。

つまり、ウェルニッケ失語を簡単に説明すると、下記のようになります。

・発話→流暢
・聴覚的理解→困難
・復唱→困難

注意点としては、失語症の診断基準として、4つの言語モダリティの全てにおいて障害されている必要があります。そのため、「比較的良好」であったとしても、障害が全くないわけではありません。また、皮質下失語など、古典的分類に当てはまらない、非典型的な失語症もいくつか存在しています。

ウェルニッケ失語によって生じる問題

ウェルニッケ失語の中核症状は、聴覚的理解の障害であると言われています。正常な人の単語の聴覚的理解は、以下のような過程で進みます。

1.音が耳から入る。
2.音素を認知する。
3.脳の中にある単語へアクセスする。
4.意味を理解する。

ウェルニッケ失語は、どの過程でで障害されているのでしょうか。

ウェルニッケ失語の多くは、2の「音素を認知する」過程で障害されています。この過程では、聴覚的な音素認知・音素分析の困難な状態になっています。ちょっとわかりにくいですね。まずは“音素”という言葉について説明しましょう。

音素とは言語学で用いられる用語です。簡単に言うと、言葉の最小単位の音のうち、語の意味を区別する機能を持つもののことを言います。

例えば、「鷹(たか)」と「坂(さか)」という単語をひらがなで書くと、「たか」と「さか」となります。この2つの単語は「た」と「さ」の違いによって区別されています。「た」と「さ」の音をさらに細く分解すると、/ta/と/sa/となります。これらの違いは子音の[t]と[s]です。つまり、「鷹」と「坂」の語の意味を区別する、[t]と [s] の音こそが、”音素”であると言えます。

ウェルニッケ失語の人は、聴覚的音素認知・音素分析が困難なので、会話の中でも「鷹 /taka/」と「坂 /saka/」の区別ができない状態になっています。つまり、音素の区別ができていないために、音を聞いても脳の中にある単語まで正しくアクセスできず、その意味も理解できていない、ということになります。

ウェルニッケ失語の人が話す言葉は、非常に聞き取りやすいことも特徴的です。話す文章も長く、話し方の抑揚や速度、リズムを含むプロソディもほとんど正常です。そのため「遠くから聞くと正常な発話に聞こえる」と表現されることがあります。しかし、実際に話している内容は、質問や会話に合っていなかったり、錯語と呼ばれる単語や音の言い誤りが多かったりします。

このように、発話量は多いにもかかわらず、情報量は非常に少ない状態のことを、「empty speech: 空虚な発話」と呼びます。簡単な会話さえうまく成り立たないこともあります。しかし、ご本人は病気についてあまり意識していない場合も多いのです。周囲の人は意味が分からなくても一々指摘せず、会話しているように接することも、良好なコミュニケーションのためには大切です。

ウェルニッケ失語が生じる原因

まずは、失語症を起こす脳の損傷が起きる原因として、下記に6つの疾患を挙げます。

・脳血管障害:脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など。
・脳外傷:事故などによる。
・変形疾患:アルツハイマー、ピック病など。
・感染症:ヘルペス脳炎など。
・一酸化炭素中毒
・脳腫瘍

この中で、今回紹介するウェルニッケ失語などの典型的な失語を生じさせることが最も多いのは、脳血管障害です。障害が生じる過程は下記のようになります。

1.脳梗塞などが起きる。
2.内頸動脈から連なる中大脳動脈領域が損傷する。
3.中大脳動脈に支配される、左MCA領域に栄養が行き渡らなくなる。
4.3の影響によりウェルニッケ失語の病巣が損傷する。

そして、ウェルニッケ失語が生じます。

ウェルニッケ失語の病巣はどこか

どの失語症も、何らかの原因によって脳が損傷している場合に起きるということを述べました。さらに、失語症では「限局性の大脳病変により障害される」必要があるため、正確にはCTやMRIによって、どこが病巣なのかを確認しなくてはいけません。

ウェルニッケ失語は、ウェルニッケ領域を含む場所の損傷によって生じます。ウェルニッケ領域は、側頭葉の上側頭回・後部という場所にあり、聴覚野を囲むように位置しています。聴覚野とは、耳から脳に届けられた音を知覚する部分です。ウェルニッケ領域が聴覚野と隣接しているために、ウェルニッケ失語の人は聴覚的理解の障害が著しくなります。

実際のウェルニッケ失語は、中側頭葉や後頭葉下部など、ウェルニッケ領域だけではなくその周辺をより広く損傷している例も多く見られます。ウェルニッケ領域は後頭葉と呼ばれる脳の後にも隣接しています。この後頭葉には視覚をつかさどる“視覚野”があります。そのため、病巣が脳の後方へ移ると、視覚を使う読みや書字などの障害が強く現れます。

ウェルニッケ失語=認知症ではありません

ウェルニッケ失語の方は、身体の麻痺も無いか軽度で、発話も流暢で多弁です。そのため、周囲の人は正常の人に話しかけるのと同じように会話しようとする場合があります。しかし、いざ会話をしてみると上手く伝わらない、ご本人の言っている内容も言い誤りが多くよく分からない、という状態になりがちです。

ウェルニッケ失語があると、音素認知と分析の障害によって、聞いた単語や文章の意味がうまく理解できなくなります。簡単な質問にも正しく答えることができなかったり、指示を理解することが困難であったりします。そのため、この人は認知症や精神障害ではないか、と誤解されることがあります。

しかし、ウェルニッケ失語は認知症や精神障害ではなく、脳の損傷によって起きる流暢な失語症です。基本的なコミュニケーション能力は保たれていることが多いのですが、聴覚的な言葉の理解がとても困難であるのです。時間の経過により、ご自身の症状についての認識も徐々にできるようになることもあります。

ウェルニッケ失語の人への誤解を避けるためには、ウェルニッケ失語の詳しい症状と問題についてよく知っておくことが必要です。

今回は、ウェルニッケ失語の問題と原因、病巣について紹介しました。次回はウェルニッケ失語のさらに詳しい症状と対処法について紹介していきます。

★ウェルニッケ失語は流暢性で、聴覚的理解と復唱は著しく障害された失語症です。
★ウェルニッケ失語は発話量も多く多弁であるが、空虚な発話が特徴的です。
★ウェルニッケ失語はウェルニッケ領域周辺の広範囲の損傷によって起こります。
★ウェルニッケ失語に対する正しい理解とフォローが必要とされています。

 

*参考文献
・失語症言語治療の基礎, 紺野加奈江, 2001
・高次脳機能障害学, 石合純生, 2003
・リープマン神経解剖学 第3版, S. David Gertz, 2008


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