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ウェルニッケ失語

~ 聴覚障害コラム ~ 聴覚障害・聴覚障害者の程度と原因①

音の歪んだ世界、音のない世界に生きる人々

音が聞こえにくい状態、音が聞こえない状態を、「聴覚障害」と呼びます。聴覚障害者の人々は、どのようにこの世界を生きているのでしょうか。

聴覚障害者の方は、コミュニケーションに下記のような問題が生じることがあります。

・相手の声が聞こえない
・声をかけても聞こえず、無視していると勘違いされる。
・情報の伝達において、誤解を生じさせやすい。
・社会の中で必要な情報が伝わりにくい。
・多人数での会議に加わることができない。

さらに、聴覚障害があることによって、情報の伝達についてのみではなく、社会から孤立しやすくなってしまうと、いう問題があります。

例えば、聴覚障害者には、車椅子を用いている方や、視覚障害者の持つ白い杖のように、一見してわかる特徴はありません。聴覚障害の方が使っている補聴器や人工内耳などの補聴機器も、今は目立ちにくいデザインの物が増えてきています。そのため、外見からは聴覚障害者であることがわからず、周囲の人から必要な助けが得られなかったり、孤立感を与えてしまうことがあるのです。

 

聴覚障害者の労力と、あきらめ

ある聴覚障害者は、相手の話している内容がよく理解できなくても、うなづいたり、分かったふりをしてしまうことがある、とおっしゃいます。一対一ならば、注意深く口元を見ながら話を聴くと、やがて訓練によって相手のことばを推測できるようになります。これを、「読話」または「読唇」と言います。

しかし、多人数での話し合いの場面ならばどうでしょう。そのような状況に常に置かれたとしたら、下記のような心理状態に陥るのではないでしょうか。

・毎回一つひとつの内容を確認することを申し訳なく思う。
・聞こえなくても周囲の雰囲気に合わせて、その場を乗り切ろうとする。
・多人数での集まりには、遠慮して参加しないようにする。

中には、周囲の人々から気を使われるのを避けるために、聴覚障害を持っていることを自分からは言わないようにしている、という方もいます。しかし、社会の中には確実に、周囲の援助を必要とされている聴覚障害者の方々もいます。その違いは、おそらくその人にとっての「聴覚障害」が、どの程度「重度」であり、コミュニケーションの妨げとなっているかにもよることでしょう。

このコラムでは、少しでも多くの「健聴者」に、聴覚障害について知っていただき、聴覚障害者の方々に対してどのように接したり、どのような話し方ならば通じやすいかを、考えていただきたいと思います。そのために、まずは人により千差万別な聴覚障害の程度や原因について、学んでいきましょう。

 

もし生まれつき音が聞こえなかったら

今までは、主に成人の中途失聴者の例を挙げてきました。中途失聴者の場合は子どもの頃に日本語を獲得しています。では、生まれつき、聴覚障害を持って生まれてきたら、そのお子さまはどのような成長を辿るのでしょうか。

一般的に、子どもは周囲の大人や母親の言葉を聞きながら、自然と日本語を獲得していきます。しかし、もし生まれてきた赤ちゃんの世界に「音が存在しなかったら」、そしてそれに「周囲の大人が気づくのが遅れたら」どのような問題が生じるでしょうか。

まず確実に言えることとして、赤ちゃんの言語発達や、正しい構音(発音の仕方のこと)の獲得は、大きく遅れてしまうでしょう。さらに、成長過程においても、環境音や大きな音が聞こえないことによる、場面の認識の遅れ、危険の察知の遅れ、という問題も生じてくるかもしれません。

子どもの言語学習には、「臨界期」があると言われています。「臨界期」とは、その時期を逃すと言語の獲得が困難になる重要な時期のことです。これには諸説ありますが、今までの聴覚障害児についての研究結果から、臨界期は0〜4歳ぐらいと暫定的に考えて、早期からの音声による聴覚活用指導を行うのが良いでしょう。

つまり、新生児や赤ちゃんにとって、身体検査や発達検査が重要なのと同じく、もしくはそれ以上に「聴覚検査」は非常に重要な位置を占めています。周囲の大人が、少しでも早くお子さまの聴覚障害を発見して、適切な対処をすることが重要です。例えば、補聴機器を用いて早期から聴覚活用をする、療育による支援を行う、等です。

現在では、病院でも新生児の聴覚スクリーニング検査が行われています。その他にも、乳幼児聴覚検診が1歳6ヶ月、3歳児を対象に行われています。

 

聴覚障害は、誰にでも何歳でも発症する

身体障害を例に挙げると、生まれつきのもの(先天性)のものと、事故や病気によるもの(後天性)があります。聴覚障害にも、身体障害と同じように、先天性のものと、後天性のものがあります。

そして、驚くことに聴覚障害は、生まれつきの障害のなかでは最も頻度の多い疾患で、日本では約1000人あたりに1人は「高度難聴」を持って生まれるとされています。また、「高度難聴」以外の、軽度や中等度の難聴も含めると、日本ではだいたい630万人以上もの人が、聴覚障害を持っています。

そこで、前述した聴覚障害者の人々の孤独と不安について思い返してみてください。「聴覚障害」に悩んでいる方は、見た目からは分からないだけで、私たちの想像以上に多くいらっしゃるのかもしれません。

 

聴覚障害の程度

聴覚障害・聴覚障害者と言っても、その聞こえ方は人によって千差万別です。これから、聴覚障害の程度について説明します。

「難聴」
音や声が聞こえにくい状態、あるいは補聴器などの補聴機器を用いて何とか音の聞こえる状態のことを、「難聴:hard-of-hearing」と言います。

「ろう」「失聴」
補聴器や人工内耳などの補聴機器を用いても、全く音の聞こえない状態のことを、「ろう(聾):deaf」「失聴:lost-of-hearing」と言います。
※「ろう」という言葉や漢字の使用には様々なご意見がありますが、ここでは一つのアイデンティティとして尊重する立場から、説明のために使用します。

つまり、聴覚障害・聴覚障害者と言っても、一言で言っても、全く聞こえない人もいれば、少しは聞こえる人もいます。また、片耳だけの障害も、両耳の障害もあります。その上で、補聴器などの補聴機器を使えば聞こえる人もいます。中でも多いのは、音が歪んだように聞こえたり、音がしているのは分かるが「言葉」として聴こえない場合です。

また、補聴器を用いても音を聞くことのできない難聴者に対する選択肢として、今では「人工内耳」という新しい補聴機器が、年々一般的になってきています。これは、生まれつきの聴覚障害者にも、中途失聴者にも埋め込むことができます。補聴器や人工内耳についても、後のページで詳しく紹介します。

 

聴覚障害の原因

これまで、聴覚障害・聴覚障害者の程度は、人により様々であることを述べてきました。それと同じく、聴覚障害の原因となる疾患は、非常に多岐に富んでいます。聴覚障害の原因について、主要となる原因を4つに分けて説明します。

1.耳の器官に問題がある場合
耳の器官に炎症や病気、外傷など何らかの異常があると、聴覚障害が生じることがあります。

耳の構造は、外耳、中耳、内耳と分けることができます。通常ならば、音が耳に入ると、まず外耳を通って、鼓膜へと伝わり、中耳、内耳、そして内耳から聴覚伝導路と呼ばれる神経を通って、脳の聴覚野へと伝えられます。こうした耳の器官で異常があると、聴覚障害が生じてしまいます。今後、部位ごとに詳しくご紹介します。

2.遺伝的な原因がある場合
遺伝的に、難聴を引き起こす遺伝子が存在しています。純粋に聴覚障害を引き起こす原因として有名なものとして、13番染色体にあるGJB2と呼ばれる遺伝子の異常があります。その他にも、遺伝性の病気の症状の一つとして、難聴を伴う場合もあります。現在は、遺伝子検査を行うことにより、聴覚障害を発症させる遺伝子を持っているか、特定できるようになってきました。

3.身体や精神のストレスが原因の可能性がある場合
身体的、精神的なストレスが原因となって、聴覚障害を引き起こすことがあります。以下の2つに大別することができます。

<実際に聴力が低下している場合>
メニエール病というめまいを伴う病気が有名ですが、実際に強いストレスが原因となって聴力が低下することがあります。多くの場合では、特に低い周波数の聴力が低下しており、薬物治療の必要な状態です。決して珍しい病気ではありません。

<実際に聴力は低下していないが、聞こえにくいと感じる場合>
ご本人が聴覚に異常を感じていて、純音聴力検査という最も一般的な検査において聴力が低下している場合もあるが、実際には聴力が低下していない状態です。耳音響放射などの詳しい検査によって判別することができます。これを心因性難聴と呼びます。

4.加齢による影響がある場合
人は誰でも、加齢に伴って聴力が低下していきます。特に、高い周波数の聴力が低下していることが多く、治療による大きな改善は見られません。聴覚障害の程度によっては、ご本人にあった補聴器の使用により、聴力を補うことが勧められます。

 

今回のコラムでは、聴覚障害・聴覚障害者の程度と原因について述べました。次回は、聴覚障害の種類と診断について紹介します。

★聴覚障害者は生活に不自由と孤独を感じている
★聴覚障害者は日本に600万人以上いる
★先天性の聴覚障害は早期に発見する必要がある

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